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2023.12.14

特集

⑥【泉大津市長×泉穴師神社 宮司】特別対談 御神木の姿から学ぶこと

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

【泉穴師神社・穴師の森プロジェクト】

鎮座から1350年、歴史ある泉穴師神社の境内にあったひときわ大きな御神木が、台風によって根こそぎ倒木しました。この御神木の姿と「穴師の森をさらに後世まで残していきたい」という第四十七代宮司の想いをうけて「穴師の森プロジェクト」が立ち上がりました。
倒木した樹齢600年の御神木と鎮守の森のストーリーを未来へ紡ぐ

【泉穴師神社・穴師の森プロジェクト】のはじまり

⑤御神木の生命力「身体健全 病気平癒御守り」 から続く

倒木した樹齢600年の御神木と、鎮守の森のストーリーを未来へ紡ぐ~本プロジェクトは、「倒木した御神木を災害遺産として残す」という全国的に珍しい取り組みについて、(泉大津市長×泉穴師神社宮司×銘木総研株式会社 代表取締役)で鼎談取材させていただいたことから始まりました。

「台風で倒木した樹齢600年の御神木を災害遺産として後世に残す」
広報誌 木魂ッ子(こだまっこ) Vol.14

こちらのコラムでは、取材から1年を経て完成した授与品について、泉穴師神社宮司から泉大津市長へのご報告のようすをお届けします。 

[ゲスト] 泉穴師神社 宮司 / 津守 康有氏 泉大津市 市長 / 南出 賢一氏
[聞き手] 銘木総研

「倒木した御神木を残す」ことの難しさ~生命力溢れる御神木の姿から学ぶこと 

市長:懐かしいですね、いつ頃の掲載でしたっけ。
 
銘木総研: 弊社広報誌vol.14 2022年10月号の誌面に掲載されました。当時のインタビューでもお話いただきましたが、倒木後すぐの議論はなかなか白熱したと伺いました。 

宮司:最初は、倒木したものを「残す」というイメージが地域の皆さんに全くなかった状態から始まりましたからね。

市長: そうですね。最終的には神社さんが決めることではありますが、なんせ御神木なので… そのような大切な存在をはたして撤去していいのか、っていう気持ちは僕にも皆さんにもありました。

市長: 残したいという気持ちが一致してからも、神社の役員さん達には、クラウドファンディングのイメージができなくて。残すにしても安全管理はどうするのか、資金がいる、これを集めよう、となったときに、(地元の方は)「じゃあこれからどう動いたらいいねん、自分たちは何したらいいねん」となった。それでかなり皆さんとお話を重ねましたね。 

宮司:そのおかげで、大人も子どもも御神木を見に来てくれます。 

市長:今では、横たえた幹から芽を出して、見事に葉を茂らせています。さらには倒れた木の足もとからも楠の芽が出て成長しています。こうして子どもが生まれ育っていますからね。

宮司: そう。あの御神木の姿は、神社を訪れた子どもたちの食いつきが違います。ご本殿を案内しても、「ほー…」という正直薄い反応なんですが(笑) 森の中に入って御神木を見たら、「うおぉー!すごい!」っていう反応が返ってきますね。 子どもたちのそんな姿を見ることができて、とても嬉しいです。 

市長: 子どもたちも、台風で一度は倒れた…ということから始まって、今の生命力溢れる御神木の姿を通して、生命の循環サイクルや輪廻に気づきますよね。あの御神木には、そういうメッセージがすごくあると思います。 

鎮守の森にある御神木からつくられた「身体健全・病気平癒まもり」 

1,000年以上続く神社の歴史、市内唯一の緑「穴師の森」、御神木の生命力溢れる力強い御姿、災害について、命について。 倒木した御神木と森の保全をしながら、そのストーリーを未来へ残していくために、今わたしたちに何ができるか…津守宮司との様々な意見交換を経て「身体健全・病気平癒まもり」がうまれました。 

染色に使用された楠の樹皮と、染色後のウール布。 
御守りの中には御神木の木片が封入されている。

市長: うわあ、きれいな色!これもう作ってくださったんですか!

宮司:はい、楠で染めたウールの布を御守りのかたちに縫製をして、刺繍をして。

市長:なんともすばらしい。優しい色味…いやあ何とも言えない、すばらしい。 とてもありがたいお品物ですね。身体健全と病気平癒… 

宮司:もともと、病気平癒の御守りについては参拝者からよく問い合わせがありました。 ただ、これまでスッと落ちつくようなものがなくて。でも今回こういう話があり、しかも楠が原料となるっていうことで、ここはもう拘っていこうかと。刺繍のデザインもいろいろ考えましたが、楠という木の語源は、 「薬の木」ということも一説としてあるということで「薬と木」に決まりました。御神木は、穴師の森で倒木した姿のまま、力強く命を繋いでいます。 人生の中で、例えご病気やお怪我などの困難があって倒れることがあったとしても、という願いを込めて。 

御神木の生命力「身体健全 病気平癒御守り」 詳しくはこちらから)

ご祈祷された御守りをご紹介
津守宮司(左)南出市長(右)

市長:すばらしい。こちらの制作はどのように?

宮司:進行は、銘木総研さんが主になってやってもらいました。企画案から全部出してもらって…これは駄目、あれは駄目って、なりながらいろいろ話をして…ね。笑

銘木総研:今回、倒木した御神木はご健在で、穴師の森に大きな材があるという訳ではありませんでしたから、木札のようなお品物の制作は難しいとなりました。でも穴師の森には、地元で森をまもられている辻川さんが日々マメに保全のために小さな枝を落としたりしてくださっていた樹皮や枝がありました。こういった細く小さな状態のものを活用させていただくにはどうしたらいいかというところを宮司様と一緒に考え、枝から色素を煮出して染色させていただくという企画に落ち着きました。 

市長:おおー!なるほど。煮出すときに楠の樟脳の成分とかも出てきそうですね。

宮司:そうなんです、材を小さくしているときにもクスノキの樟脳の独特な香りがしていました。

御神木の剪定材や枝などは、お炊き上げやとんど焼きに利用するために森に保管されていた。
染色用の材は、泉穴師神社の宮司によって選ばれたものが使用されている。 

宮司:材料は、御神木の枝の中から選んで、持って帰ってもらいました。どんな色になってくれるんだろうって。御守りを仕立てる布には、泉大津市の特産品であるウールを使用しています。

市長:すごい!ここまでしてくださったわけですね。 

宮司: 染めるのも銘木総研さんに全面的にお願いしました。楠の幹の中にあるピンク色がいい感じに出て、落ち着いた色になってくれましたね。 それから、御守りの中には、内符として和紙に包まれた御神木の木片(樹皮)が入っています。

市長:包み方もとても丁寧で、真心がこもった感じがします。細部にわたって拘られていて…、いやぁお見事です。 

宮司:授与は、2024年の元旦からを予定しています。 

御守りとともに授与されるリーフレット 

市長:食事と運動と休息…そうですよね。泉大津市では、健康への取り組みっていうのを全国的にも先駆けてやっています。かなり注目されていてどんどんファンも増えています。食も、泉大津の給食って言ったら全国的に有名になっていますから。泉大津市の取り組みともマッチしますね。

宮司:ぜひ市長も身体健全で、健康でいらしてください。 

市長:そうですね!ありがとうございます。 

泉大津市の東西南北にある4つの神社~日本の基礎をつくった神さま 

市長:僕はよく泉穴師神社さんを参拝させていただくんですが、いろいろ調べると面白いんですよ。泉穴師神社の神様は、天忍穗耳尊(あめのおしほみものみこと)様と、栲幡千千姫命(たくはたちちひめのみこと)様ですよね。天忍穗耳尊様は、天照大神様のお子にあたる。そして、天忍穗耳尊様と栲幡千千姫命様の子は、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)様と邇芸速日命(にぎはやひのみこと)様です。

宮司:はい、はい。

市長:僕がすごいと思ったのは、同じく泉大津市内にある曽根神社に、邇芸速日命(にぎはやひのみこと)様が祀られていることなんです。邇芸速日命(にぎはやひのみこと)様といえば、日本国の建国に影響しています。 もうひとつ驚いたのが、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)様。瓊瓊杵尊様といえば天孫降臨です。天照大神がこの稲穂で国土を豊かにしなさいと言って日本に稲作を広げた。今の皇室の神事も、稲作は中心になっていますね。

※「瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)」は天照大神の孫、神武天皇の曾祖父。名は「天地が豊かに賑わう神」を意味する。降臨の際に稲作を地上にもたらしたとされることから、農業の神さまとしての御利益に五穀豊穣や商売繁盛の他、国家安寧、殖産振興などがある。

日本の基礎をつくった神様がここ泉大津市におられ、そしてその父・母が泉穴師神社におられるということ。この意味をもう一回再考していくと実は泉大津市っていうのは、 次の時代に向けて新しいものを生み出すような、日本の安寧と弥栄を生み出すような力のある神様のおられる土地だというふうに感じているんです。 

こう考えると、泉穴師神社の御神木のように「倒れても立ち上がってくる」という意味や、泉穴師神社に参拝する意味がよりわかってくる。この御神木が教えてくださったこと、こういったストーリーを知ってもらうことで、この土地や故郷に感謝しようと人が増えるんじゃないかと思っているんです。 

市長:地域のお祭りなんかもね、やっぱりご神事ですから。礼を学ぶと綺麗に揃ってかっこいいですよね。

宮司: そうですね、騒ぐところは騒いで、特に神さまのことや祭礼というところはきちっとした礼法で迎えて。泉大津の魅力ですね。

銘木総研:私達も、泉穴師神社のことや御神木のことを皆様に知っていただくために多くの取材を重ねました。泉穴師神社に伝わる飯之山神事やだんじりの取材を通して、保存会の方や祭礼の世話人の方にお話を伺ったり、だんじり彫刻の意味を詳しく教えていただいたり。市の方々にそれぞれの町の特徴や自慢ポイントをお聞きして、記事にさせていただきました。

鎮座から1350年。倒木した御神木と泉穴師神社の魅力
【レポート前編】泉穴師神社に伝わる祭礼「飯之山神事」とだんじり祭り
【レポート後編】泉穴師神社に伝わる祭礼「飯之山神事」とだんじり祭り
泉穴師神社の社をまもる鎮守の森「穴師の森」

市長:うわぁ、そこまでやってくださったんですね!

銘木総研:穴師の森についての歴史なども調査しました。かつては松の森だったのですね。

市長:江戸時代ぐらいまでの森ですよね。確か神社に掛け軸がありましたよね。 

宮司:そうですね。昔は松が多かった。今は松はほとんどなくなりましたね。 

市長:やっぱり泉大津といえば、かつては白砂青松で、奈良時代から土佐日記にも出てきますし、和泉の国の小津の泊、港のある機関として、天皇陛下とか国司とか文化人が昔から行き来往来する場所だった。泊のところにはまさに青い松に白い砂、美しい光景がずっとずっと繋がっていたことでしょう。だから今でも松ノ浜とか助松とか、その名残は少し残っていますね。もちろん防砂林という意味合いもありますが。そうやって歴史も交えてどんどん意味を持たせていったら、みなさんほんとに喜ばれるんじゃないかと思います。泉大津にある四つの神社にもそれぞれ意味がある。 

宮司:そうですね。市内には、ちょうど東西南北に神社があります。

市長:ですよね!玄武・朱雀・白虎・青龍とそろっている。そういうことを考えていったら、次の企画もできそうですね。それから… 

秘書の方:そろそろお時間で…

一同:はや!もうそんな時間ですか!笑 

泉大津市内の4つの神社(泉大津市HPより)

とても盛り上がった今回の対談。プロジェクトを通して、泉大津市の魅力が改めて浮き彫りになりました。

初詣には、泉大津市内のみなさまはもちろん市外の皆様も泉穴師神社に足を運び、御神木の御姿を参拝されてみてはいかがでしょうか。 

泉穴師神社へのアクセス

【電車・徒歩の場合】
 南海本線泉大津駅下車、東へ約1.5km、JR和泉府中駅下車、西へ約1km
【車の場合】
 国道26号線、阪和豊中交差点を(堺方面から来た場合)右折、2つ目の信号を左折すぐ

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.21

にも掲載されています!

【泉穴師神社・穴師の森プロジェクト】
~倒木した樹齢600年の御神木と、鎮守の森のストーリーを未来へ紡ぐ~

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この記事を書いた人

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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