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2023.08.25

木のコト

台風で倒木した樹齢600年の御神木を災害遺産として後世に残す

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部
平成30年、台風21号の影響を受けて倒木した、樹齢600年の御神木であるクスノキ

伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木。銘木総研では、その1本1本の木が持つ史実やいわれを調査研究し伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案を行っています。
今後の教訓として活かすために、台風で倒木した御神木を災害遺産という「形」として残すという決断をしたのは、泉大津市にある泉穴師神社。その経緯を伺いました。

[ゲスト] 泉穴師神社 宮司 / 津守 康有氏 泉大津市 市長 / 南出 賢一氏
[聞き手] 銘木総研 / 前井 宏之

目次

倒木した御神木を撤去せずそのまま残す

根本から倒木した御神木は今でも新しい芽を伸ばし、その生命と歴史を紡ぐ力強さが感じられる。

前井:銘木総研の取り組みに、源頼朝が大願成就の願いを込めて手植えしたといわれている推定樹齢800年、倒木した名木頼朝杉を利活用したプロジェクトがあります。泉大津市、泉穴師神社の取り組みを知った際、「倒木した名木の利活用」という共通点を見出し、ぜひ詳しくお伺いしたく、インタビューを依頼しました。まず、倒木し廃棄されることが多い名木である御神木をなぜ災害遺産として保存していこうとされたんですか?

宮司:やはり最初は「どう処分しようか」という話から始まりました。そうとなるとどうやって運ぶのか?いくらかかるのか?といった不安・心配ごとがたくさん出てきました。色々考えてもなかなか方向性が見いだせない中、市長と意見交換させていただく機会があり、その中で「クラウドファンディング」という手法を教えてもらってこのプロジェクトは始まったんです。

市長:私も普段から泉穴師神社にはよく足を運んでいて、御神木が倒れたという話を聞いた際はすぐにうかがいました。神社を中心にこの町は育まれましたし、人が集まる拠点であり心のよりどころでもあります。また泉大津市の中に森は、ほぼこの神社にしかありません。そんな神社に600年も鎮座し、この町の歴史を見て、守ってきた御神木を処分するということが、すごく心の中で引っかかり、なんとかこれを残し、活かす方法がないかと考え、ご提案させていただきました。

宮司:近くの小学校の校歌にも「くすのおおきに風かおる、穴師の森につどいきて」という言葉でこの御神木が登場するんです。地域にとって当たり前の存在だったので処分という判断は簡単にはできませんでしたね。

前井:その活かす方法として「災害遺産」として残すということになったんですね。けれどよく「残す」という発想になりましたね?

宮司:いや当初は全員が処分する方が良いという考えだったんですが、今は市外で活動されている泉大津市出身の方が現場を見た際、「これは何らかの形で残したほうがいい」とおっしゃったんです。

市長:私もその時に「これは残してもいいのだ」と発想が変わり、これまでのひっかかりが取れましたね。

前井:倒木ののち、これを防災のシンボルとして残すと決めたわけですが、その過程で苦労したことはありますか?

宮司:いやぁほんと大変なことばかりでしたね。市長には何度も来てもらい、関係者とはどう残すのかを何度も何度も議論したり、説明してきました。

クラウドファンディングで保存の資金を調達

(写真左より) 泉穴師神社宮司·津守康有氏泉大津市長·商出賢一氏、弊社銘木総研代表取締役·前井宏之

市長:特にクラウドファンディングを使って保存しようと決まってからは大変でしたね。保存するにはどうしたらいいか、いろんなアイデアは出るけれど、これまで100人規模で地域の皆さんが片付けのボランティアにきていただいたことを考えると、そこまで多額の費用をかけたくないことも事実。その折り合い、意見をまとめるのが難しかったです。

けれど、このプロセスにこそ私はチャンスがあると思いました。全面的に関わって、これをキッカケに多くの方が災害に対する意識を持つ、森のすばらしさを知る、泉穴師神社の木が育んできた歴史に触れてもらいたいと考えていました。

前井:行政がここまで深く関わる事例をあまり聞いたことがなく意外だったのですが、このプロセスを踏むことで防災という意識が高まり、神社としての価値もさらに高まると考えられたんですね。

市長:まさにその通り。この神社の森は先達、先人、先輩方が守りはぐくんできてくれた。むしろこれをきっかけにこの森を子々孫々残していこうという意識を高めるべきだと考え、今もその意識でかかわっています。

前井:一番の目的である「保存」は達成しましたが、それをシンボルとしてどう活かしていくかお考えはありますか?

宮司:現状、幹から新しい芽が出てきています。どこまでいけるかわかりませんが、その成長を見守りながら、御神木を見に来た人たちに災害の話を伝え、その人が次に繋いでいってくれる。その傍に御神木の子孫が成長した姿があったらいいなと思います。必ずしも残さないといけないということでなく、自然な形で維持できるならいいのでは、とも思います。

前井:今後泉大津市として、防災という切りロではどういう関わり方ができると思いますか?

市長:防災というのはひとつの切りロで、こういった事実があったという歴史ストーリーを残していくことで地域のアイデンティティや郷土愛につなげていきたいですね。石碑も建立したので、語り継いでいく、伝承として残していくというところが大事だと思います。と同時に、森をみんなでどう守り、育むかということにつなげていきたいし、関わるプロセスそこには必ずこの台風の被害は出てくる。そこから防災の意識を育んでいきたいですね。御神木などの歴史遺産は決して過去からのものを引き継ぐだけじゃなくて、我々が残して未来へ引き継いでいくことも大切だと思うので、色々とプロジェクトを考えないといけません。

今年でちょうど泉大津市は市政施行80周年です。これまでの歴史を振り返り、これからの未来ヘとつなぐ結節となる年なのぐ、記念植樹も予定しています。森をもう一度みんなで育て、未来ヘとつなぐキッカケにしていきたいです。

前井:ストーリーが発掘され、目に見える形で後世に伝えていくことで、その地域の歴史や文化、魅カやアイデンティティにもつながりそうですね。

私たちも名木「頼朝杉」を利活用し、みなさんになんらかの形で触れていただくことでその史実や伝承を継ぎ、新たな魅力を創造することを進めています。

そこにも過程・プロセスを知ってもらうことがとても大切だと感じています。ぜひ、泉大津市、泉穴師神社の活動を参考にさせていただきます。長時間ありがとうございました。

保存された御神木にご興味のある方は泉穴師神社ホームページをご覧ください。

※2022年10月に行われた鼎談から1年。
1,000年以上続く神社の歴史、市内唯一の緑「穴師の森」、御神木の生命力あふれる力強い御姿。災害について、いのちについて。物理的な安全を確保して御神木と森の保全をしながら、このストーリーをさらに未来へ残していくためにはどうすればよいか、さらに検討が重ねられました。この御神木の姿と、「穴師の森をさらに後世まで残していきたい」という第四十七代宮司の想いをうけて、「穴師の森プロジェクト」が立ち上がりました。

倒木した樹齢600年の御神木と鎮守の森のストーリーを未来へ紡ぐ

【泉穴師神社・穴師の森プロジェクト】
※画像をクリックすると記事をお読みいただけます。

泉穴師神社へのアクセス

【電車・徒歩の場合】
 南海本線泉大津駅下車、東へ約1.5km、JR和泉府中駅下車、西へ約1km
【車の場合】
 国道26号線、阪和豊中交差点を(堺方面から来た場合)右折、2つ目の信号を左折

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.
14
にも掲載されています!

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銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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