2024.02.02
植物が自然な姿でお出迎え〜牧野富太郎博士の故郷にある「高知県立牧野植物園」川原信夫園長に聞く
太平洋に面した四国の真ん中あたり、ちょうど窪んだ部分にある高知の浦戸湾。この湾を望む標高146メートルの五台山は桜やツツジの名所で、山中にある竹林寺は四国霊場第31番札所として知られています。この五台山に、牧野博士の業績を顕彰した植物園があります。草木を愛する人に分け隔てなく接した牧野博士の意思を受け継いだ植物園です。川原信夫園長にお話をお聴きしました。
牧野富太郎博士を顕彰。楽しく学び、体験、研究する。すべてを備えた総合植物園
牧野植物園の魅力は野生に近い状態で植物を観察できること
牧野富太郎博士を顕彰する植物園として植物を植栽して見せるだけでなく、植物研究にも力を入れており、日本でも珍しい総合的な植物園です。園地は、野生に近い状態で植えてあり、生態展示と言いますか、それがすごく魅力的です。
もちろんフラワーガーデンのような見せるエリアや、薬用植物だけを集めたエリア、高知県特有の植物や牧野博士ゆかりの植物などを、起伏に富んだ地形を利用し、適地に植栽しています。自然植栽なので、長くいても飽きない植物園です。
落ち葉もすべて排除するのではなく、自然な風情につながるところは、なるべく自然な形で見ていただけるようにしています。
植物園内で川原園長の一番好きな場所はどこですか?
それはこんこん山広場です。新しく開かれた園地ですが、こんこん山広場に行くと気持ちが穏やかになって包まれるような気がします。私はいつも朝六時に来て園内を歩くのですが、こんこん山広場から眺める朝日は素晴らしいですよ。
こんこん山広場は標高130メートル、低いところは90メートルで、40メートルくらいの高低差があります。ビルにすると10階から15階の高さです。アップダウンがあるので、散策しながらエリアごとの珍しい植物などを見ていただけます。
また、牧野植物園では「よるまきの」という夜間開園を行っています。こんこん山広場で星を見たり、映画上映会「お山でシネマ」などを開催しています。
川原園長が語る。高知の美しい空気と自然が生んだ牧野富太郎
川原園長は高知県出身ですか?
私は生まれも育ちも東京で、ずっと関東に住んでいました。厚生労働省管轄の研究所で、漢方薬の原料になる生薬や薬用植物の評価に関する研究、日本薬局方という法律を作る作業や研究をしてきました。
高知と言えば、桂浜などの「海」の印象が強いのですが、実は八割以上が山や森林。こんこん山広場に上がると向こうの山々にモヤがかかって雲海になり、天空の城のような雰囲気です。
牧野博士にとって高知の自然は特別なものだったのでしょうか。
牧野博士ご自身も「自分は草木の精である」とおっしゃっていますが、高知で生まれるべくして生まれた方だと思います。高知は植物の楽園ですから。
高知では植生がはっきりしていて、すべてが鮮明でくっきりしています。都心と同じ植物でも、鮮やかさが違うように見えます。
牧野博士の情熱は何に由来すると思われますか?
土佐気質だと思います。頑固者が多い(笑)。それはいい意味で、自分の決めたことはひたすら突き詰めていく。土佐の自然が生んだ気質でしょう。
牧野博士の功績について、園長はどのようにお思いですか。
日本における植物分類学の父と称されますが、まさに礎を築いてくださった方です。東大や京大といった学閥の中ではない独自の世界観。努力と見識…牧野文庫からわかるように、個人であれだけの蔵書を持っている人はそういません。
その結果、借金まみれになりましたが、頓着せずに、自分の道を突き進んだ偉大な方です。そのくらいの気概がないと、研究者としても高みに行けないですから。
例えば、センブリという植物は日本古来から使われてきた薬ですが、命名者は牧野博士です。学名「Swertia japonica Makino」と書かれていて、薬局方に記載されています。薬学を勉強している者にとって、牧野博士は必ず目に触れる人物です。
川原園長にとって牧野富太郎とは、一言で言うとどんな人?
自分とは真逆の人です(笑)。ですから、すごく憧れがあります。そうなりたいと思っても、なかなかなれない偉大な人です。
周りに流されたり、しがらみなどに左右されない。結果、その努力は報われています。
高知県の自然の魅力を発信し続けることが牧野植物園のミッション
NHKの朝の連続テレビ小説で取り上げられましたね。
我々が言いたいのは「高知には牧野富太郎がいるぞ!」と。
高知は坂本龍馬が有名ですが、植物学を極めた牧野博士を、ぜひ知ってもらいたい。
今、時代背景として自然を活かすことが重要なテーマです。一途に努力して道を極めていく姿は、朝のドラマにマッチしたと思います。
後世に自然を繋ぐために、どのような取り組みが必要ですか?
昔から受け継がれているものを、しっかりと残していくことが大切だと思います。
例えば県木の魚梁瀬杉は、江戸時代から植林されている歴史あるものです。ただ林業従事者が減少し、中山間地域の人口も減って、継ぐ人も少なくなっていますので、活気を与えるようなことが必要です。
高知には県外から移住してくる人が増えています。うちの職員も、他県から「牧野植物園で働きたい」と移住してきた者も多いです。牧野博士に憧れて…など、何か魅力があれば人は集まってくると思います。それをいかに表に出していくかが大切です。
そのためには園地をしっかり整備して、将来植物学を学びたいという人や子供たちに、牧野博士の教えを広めていくことも重要ですし、県内の資源を活用した研究を、県の産業に活かすという出口も重要と思います。
新しい研究棟ができたと聞きましたが。
「植物研究交流センター」として2023年5月に完成しました。研究は外からは見えにくい部分がありますので、一部を見学できるようにし、子供たちに研究の実体験をしてもらったり、製薬メーカーや学生と、共同で研究したりできるように考えています。
ラボテラスには新しくレストランも設けられ、高知県産の旬の食材を使ったハンバーグや白身魚のランチをお楽しみ頂けます。また、ミュージアムショップもあり、牧野富太郎博士が愛用した画材やルーペなども販売されています。
植物に興味を持った子供たちから、第二第三の牧野富太郎が世界へと輩出できたら…高知にはそういった土壌がありますので。そんな子供たちが一人でも多く誕生すればと思います。
ここは、時間をかけて楽しみたい植物園ですね。
そのためにも、ぜひ、年間パスポートをご購入ください。季節ごとに風景が変わりますし、年を経てまたご来園していただきますと、木々の成長が我が子の成長を見るようにお楽しみいただけます。
※取材日 2022年3月18日(掲載内容は取材当時のものです)
画像提供:高知県立牧野植物園
高知県立牧野植物園
〒781-8125 高知県高知市五台山4200-6
TEL(088)882-2601 / FAX(088)882-8635
[開園時間]
9:00~17:00
(最終入園16:30)
[休園日]
年末年始 12/27~1/1
メンテナンス休園 2024/1/29、6/24、9/30、11/25、
2025/1/27
[入園料]
一般730円 (高校生以下無料)
団体630円 (20名以上)
年間入園券2,930円(1年間有効のフリーパス)
【URL】https://www.makino.or.jp
高知県の名木はこちら
名木伝承データベース / 基本情報
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名称:杉の大スギ
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樹種:スギ
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状態:生存
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樹齢:推定3000年以上
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樹高:南:約60m / 北:約57m
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幹周り:南:約20m / 北:約16.5m
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保護・指定:国指定特別天然記念物
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所在地:高知県長岡郡大豊町杉794
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