2023.12.14

木のコト

④泉穴師神社の社をまもる鎮守の森「穴師の森」

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

【泉穴師神社・穴師の森プロジェクト】

鎮座から1350年、歴史ある泉穴師神社の境内にあったひときわ大きな御神木が、台風によって根こそぎ倒木しました。この御神木の姿と「穴師の森をさらに後世まで残していきたい」という第四十七代宮司の想いをうけて「穴師の森プロジェクト」が立ち上がりました。
倒木した樹齢600年の御神木と鎮守の森のストーリーを未来へ紡ぐ

かつてはマツの森だった? 「穴師(あなし)の森」の歴史


③【レポート後編】泉穴師神社に伝わる祭礼「飯之山神事」とだんじり祭り から続く

「穴師の森」は、泉穴師神社境内の「鎮守の森」として大切にされてきた場所です。
様々な樹木が植生していますが、全体の約60%をクスノキ・クロガネモチ・ムクノキが占めています。その中でもクスノキは、胸高幹周りが3.5m以上、高さが20m以上の大木が12本あり、大阪府内で最大級のクスノキ大木群を形成しています。

そんな「穴師の森」ですが、かつてはマツが多く生えている場所でした。『泉州五社第二穴師大明神社の図』を確認すると、参道の両側と全神域がマツに覆われています。

泉州五社第二穴師大明神社の図

鳥居と鳥居の間や社殿がある外側にはほとんど建物がないため、日光を好む性質のマツには好条件の植生場所だったと考えられます。

また、泉大津の海辺には北西の風が吹いており、浜辺には風よけのためにマツが植えられていたといいます。泉穴師神社の境内のマツも同じように風よけとして、もしくは泉大津全体の景観なども考えて植えられていたのかもしれません。

ところが、今から200年以上前の寛政の頃の絵図「和泉名所図会」を確認すると、マツ以外にも所々に形の違う樹木があります。

摂南大学図書館所蔵「和泉名所図会」

樹種は詳しくわかりませんが、現在植生している樹木の樹齢から逆算すると、この頃にはマツだけでなくクスノキやクロガネモチなどが境内に植えられていたのだと考えられます。

クスノキが多く生い茂るようになったのは、戦後からだといわれています。昭和初期までは参道や反橋の左右にマツが生い茂っていましたが、昭和9年の室戸台風や昭和25年のジェーン台風で、残っていたマツが倒れてしまったのです。

その後、補植をしてなんとか「マツの森」を復活させようとしたそうですが、松喰い虫によって再び枯死してしまい、マツはほとんどなくなってしまいました。

そして代わりに植えられたのが、虫に強く成長も早いクスノキでした。以降、「穴師の森」にはクスノキが多く植生するようになり、今のような穴師の森になっていったのです。

「大阪みどりの100選」に選ばれたわけ

穴師の森は、「大阪みどりの100選」に選ばれており、大阪府民の25,700通を超える投票から選ばれた府民や地元からとても愛されている名所です。

森は中を自由に通り抜けることができ、境内を通って西側に抜けると大きな道に繋がっていることもあり、子どもたちや地域の方々が普段から行き来している生活に欠かせない大事な森でもあります。

毎月4日、14日、24日には境内に屋台がでる夜店が行われています。地域の子どもたちが集まり、お祭りだけでなく日常的に人の笑顔が集まる場所になっています。  

一歩森の中に入ると、そこはまさに鎮守の森。 綺麗に剪定された大小さまざまな樹木の枝の間から、大地まで日の光が届く神秘的な場所です。鳥の鳴き声の中、落葉したクスノキの葉っぱで敷き詰められた絨毯の上を歩くと、思わず深呼吸をしたくなります。 

少し歩くだけでも気持ちが落ち着き、癒やしの場所に入らせていただいたような感覚になります。

また、森には色々な種類の野鳥が訪れ、時期になると珍しい野鳥を撮影しようと多くのカメラマンが訪れるスポットにもなっています。毎年渡り鳥が訪れ、鳥たちにとっても憩いの場所になっているそうです。

泉大津市の唯一の森ということもあり、地域のみなさんの心のよりどころとなっている「穴師の森」。

この森の手入れは、地域の方の手でおこなわれています。低木の剪定や枯れてしまった枝の剪定、危険な枝がないかを普段から目視しているそうです。

森は、人の手が入らなければ地面に日の光が入らず、背の低い樹木の生長を阻害してしまうと言われています。普段から丁寧に森を管理している「森のまもりびと」の存在は、地域の人々や野鳥にとってかけがえのない存在。これも『大阪みどりの100選』に選ばれた理由の1つになったのではないでしょうか。

そして森の奥には、倒木後もそのまま災害遺産として残されている、樹齢600年の御神木の御姿があります。

木々の大きさだけでなく、形や樹皮の色や質感、1本の木とその両隣にある木々の関わり。高く伸びた枝や葉の間から差し込む光の道、森の大地に広がり、神社をしっかりと支えているような根っこの姿。

1本の木から森全体を感じて、森にあるいろんな視点になって見つめてみると新しい発見があるかもしれません。  初めての方も、何度も来たことがある方も ぜひ一度、「穴師の森」を訪れてご自身の心と対話してみてはいかがでしょうか。

泉穴師神社・第四十七代宮司 より

穴師の森も、自然の神様です。

お社(やしろ)は神様がいらっしゃる場所として参拝される方が拝む対象とされていますが、泉穴師神社にある穴師の森とお社は一体で、お社を取り囲むようにある森が社を守っています。

穴師の森は、お社と同様に後世へ残していきたい大切な存在。そして森の中にある御神木は、穴師の森で倒木した姿のまま、力強く命を繋いでいます。穴師の森、泉穴師神社の御神木の姿は見事です。市内の皆様はもちろん、全国のみなさまも是非足を運んでみてください。

穴師の森の御神木・クスノキでつくられた御守り「身体健全 病気平癒御守り」と第四十七代宮司 津守康有 氏

⑤御神木の生命力「身体健全 病気平癒御守り」 へ続く

泉穴師神社へのアクセス

【電車・徒歩の場合】
 南海本線泉大津駅下車、東へ約1.5km、JR和泉府中駅下車、西へ約1km
【車の場合】
 国道26号線、阪和豊中交差点を(堺方面から来た場合)右折、2つ目の信号を左折

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銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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