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2023.12.01

木のコト

杉案内人・高桑進先生の「杉スギる話」~日本のスギはすごスギる?①

高桑 進
高桑 進

目次

スギの森林面積と増やし方

スギの森林面積

 2020年のデータ(※1)によると、わが国の森林面積は「約2500万ヘクタール」で「世界23位」ですが、森林比率では「世界第3位」。そのうち人工林の面積は「約1020万ヘクタール」で、スギの人工林は「約450万ヘクタール」もあります。これほどの面積を1種類の針葉樹で植林した国は例がなく、有用な材であるスギは『日本の宝』ともいえるので、今後もその活用が望まれます。

(※1) 参考:林野庁「世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート概要

スギの実生苗と挿し木苗の違い

挿し木と実生の根系の違い

 スギは、挿し木ですぐに発根する特徴を持つ針葉樹です。その性質を利用して優れた形質を持つスギの精英母樹から切り出した枝を砂などに挿して発根させるのが挿し木苗。このやり方は狭いスペースで大量に苗を生産することができます。

 一方、種子から苗を作るには広い圃場(ほじょう)が必要で、3~4年生育させてから移植前に根切りと称して直根を切り、多数の根を発根させてから移植します。この方法には生育期間中に雪害に強い苗を選抜できる利点があります。

 天然のスギの場合は種子から発根するため、まず直根が伸びてから細根が出て生育します。そのため生育は遅いが土壌中にはしっかりとした直根が伸びるのです。

日本列島におけるスギの起源と利用

スギの誕生

 スギ科植物の祖先が現れたのは、約2億年前(中生代ジュラ紀)に遡り、現在見られるスギ科の多くは約7000万年前頃(中生代白亜紀後期)に現れ、約2303万年前~約258万8000年前(新生代第三紀)にかけて北半球の広い範囲に分布を広げていったと考えられています。

 化石では現存しない種が多数発見されていますが、現存する種の内8属は東アジア地域と北アメリカ地域に、1属がタスマニア島に分布します。形態的にも大きな違いがあり、隔離分布し、それぞれに含まれる樹種数は少なく、単独種が多いのです。わが国には日本固有種であるスギ属スギ1種(※2)が分布します。

 日本で発見された最古のスギ属化石は、約600万年前頃(第三紀中新世後期)の地層から見つかったミヤタスギ(※3)です。現在のスギは約180万年前(第四紀)の氷河期の気候変動を経て、目立った形態変化もすることもなく「生きた化石」として日本列島に生き延びている日本固有種です。

(※2)学名:Cryptomeria japonica
(※3)学名:Cryptomeria miyataensis

スギの分布拡大

 氷河期の間スギは、日本海側の海岸沿いの温暖で湿潤な場所に細々と生き延びていたことがわかりました。約2万年前の最終氷期の最寒冷期が約1万年前に終わり、ごく限られた地域である福井県の若狭地方に生き残っていたスギが、その後の温暖化にともない、縄文時代には急速に分布域を拡大し北上したことが、花粉分析の結果からわかっています。

 スギの分布が特に多かったのが本州の日本海側と東海地方で、現在でも天然生のスギの分布域が見られる年間降水量2000ミリ以上の地域にあたります。日本海側は冬の降水量が、東海地方は夏の降水量が多い地域です。

 富山県魚津市には、「埋没林」と呼ばれる、海中より発見された約4000年前に生えていたスギの大木の株と根が見つかっています。また、今から約2000年~5000年も前に生育していたスギの化石が、福井県高浜町の水田や島根県太田市にある三瓶山の麓から出土しており、日本海側にも広く巨大なスギの森林があったことがわかります。

『木』の基礎知識

樹木とは?

生物学では、樹木を「木本(もくほん)」、草花を「草本(そうほん)」といいます。

木本は、樹皮の内側に「形成層」と呼ばれる組織があり、この形成層が木質部を作りながら成長し、幹が太くなります(肥大成長)。季節により成長速度が違うため年輪ができます。横方向に太くなるとともに上方に伸長・成長して高くなります。

草本には形成層がないので太くならず、木本の幹に当たる部分は柔らかく「茎」と呼ばれます。木本と草本の違いは、形成層の有無にあり、木部の細胞を年々蓄積して成長するグループを「木」、蓄積しないグループ(多くは1年~数年で枯れる)を「草」として、木本と草本を区別します。

針葉樹と広葉樹の違い、常緑樹と落葉樹とは?

針葉樹は、カラマツとメタセコイアを例外として、葉が冬になっても緑のまま落ちず、葉は針状です。これは冬の寒さだけでなく乾燥に対する適応と考えられます。

広葉樹は、葉が広く、冬に落葉するものと、落葉しないものとに分かれ、冬に葉を落とすものを落葉樹、そして季節を問わず葉をつけているものを常緑樹といいます。

落葉樹は、春に薄い葉を展開し、素早く光合成を開始し秋に落葉します。

一方、常緑樹も春に葉を展開しますが 、冬の凍結に備えて春から冬にかけて徐々に頑丈な葉を作ります。
常緑樹の光合成は、冬には一旦落ちますが、 春には回復し、葉の生涯の二酸化炭素の吸収量は落葉樹よりも多くなります。

柾目と板目の違い

「板目」とは、木材を中心からずらして切ったとき(年輪に接する方向、接線方向に切ったとき)に表面に現れる木目で、タケノコ型の山が重なったような模様が特徴です。

「柾目」とは、木材の中心付近を切ったとき(中心から外に向かう方向、半径方向で切ったとき)に表面に現れる木目です。

この柾目と板目では材の性質が違い、板目の方が柾目よりも強度が高くなります。コストの面では、板目の方が柾目よりも安価な傾向にあります。樹木の幹の中心部は割れ等の不具合が発生しやすいため、木材の中心付近を切る柾目では、幅広い材料を確保しづらく、価格が高くなりやすいのです。

性能の面では、板目の方が柾目よりも乾燥時の収縮が大きく、反りなどの不具合が発生しやすくなります。これは「異方性」と呼ばれる木材の性質が原因です。

高桑進

1948年富山県高岡市生まれ。
名古屋大学大学院博士課程修了、理学博士号を取得。米国ミズーリ州立大学でポストドクターを2年、京都女子大学に31年勤めたあと、2013年3月に退職。4月から5年間、非常勤として同志社女子大学、龍谷大学、大阪大谷大学などで70歳まで勤務。龍谷大学の里山学研究センターの研究員を20年。京都市の伝統と文化の森推進協議会の森林整備委員会の委員を10年。全てのいのちを大切にする「生命環境教育」を、京都市左京区大原にある25ヘクタールの自然林「京女の森」で1990年から2013年まで実践。

これらの活動に対して2022年5月、環境大臣賞を頂きました。
趣味は、鮎の友釣りと渓流釣り。風呂敷と手ぬぐい収集。自然観察等。
専門は環境教育、微生物学。現在、杉文化研究所所長。
著書:「京都北山京女の森」ナカニシヤ出版他多数。

現在、たった一人の妻と同じ家で生活してます。後期高齢者です(笑)。

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.
20
にも掲載されています!

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この記事を書いた人

高桑 進
高桑 進

京都女子大学名誉教授(微生物学・環境教育)、龍谷大学里山学研究センター研究員、日本鳥類保護連盟京都支部長他。著書に『京都北山京女の森』(ナカニシヤ出版、2002年)、『森里川湖のくらしと環境-琵琶湖水域圏から観る里山学の展望-』(共著、晃洋書房、2020年)などがある。令和4年度環境大臣賞受賞。

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