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2023.11.13

木のコト

痔が治る!?楠宮稲荷社の御神木 ~アカエイが宿るという不思議な伝承~

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

目次

神の化身「アカエイ」が宿る不思議なクスノキ

「ご神木にアカエイが宿っている」
そんな珍しい伝承が残っているのは、兵庫県神戸市長田区にある長田神社のクスノキです。

長田神社は「事代主神(ことしろぬしのかみ)」を祭神としており、商売繁盛や開運招福・厄除けの神様としても知られています。地元の人々からは「長田さん」と呼ばれ、親しまれています。   

境内に入ると朱色の社殿が並んでおり、所々に木々の鮮やかな緑が顔をのぞかせています。
その中でも特に目立つクスノキが1本、本殿の裏側にある楠宮稲荷社のさらにその奥にそびえています。樹齢800年といわれているこのご神木は、幹周り約5m、樹高約30mの巨木。
このご神木に、神の化身であるアカエイが宿っていると信じられているのです。

アカエイの伝説の起源

アカエイの伝説の起源は、今から1000年以上前に遡ります。
6世紀頃の初秋、繁殖のため岸の近くに寄ってきたアカエイの群れが、夜の台風で増水した苅藻川を遡り、境内に入り込みました。そのアカエイを近所の人が捕獲しようと追いかけましたが、ご神木の前で見失ってしまったそうです。
それ以来、村人から「長田神社のご神木にはアカエイが宿る」と信じられるようになりました。

「痔の神様」としての信仰

ご神木がある楠宮稲荷(くすみやいなり)社には、「痔が治る」という一風変わった不思議なご利益があります。
通常の絵馬は願い事を書いた後に自分の名前を書くのが一般的ですが、長田神社の場合は「願い事・性別・干支・年齢」を書いてお供えします。つまり、絵馬に名前を書かないのです。こうした書き方は、誰が痔の病になったのかわからないようにするための工夫と考えられているようです。
昔はアカエイを食べることを断つことで諸願を願ったといわれていますが、現在はこのようにアカエイが描かれた絵馬を奉納する方法に代わっており、最近では痔の病だけでなく、その他の病気の平癒や心願成就などを願う人も多いそうです。   

長田神社「いきもの」との不思議なご縁

長田神社に残るのは、アカエイの言い伝えだけではありません。その他にもたくさんのいきものと関連しています。  

1匹目のいきものは、ニワトリ。
1800年以上前、朝鮮半島から帰還する途中の神功皇后の船が瀬戸内海を航海中に船が進まなくなったので占ってみると、事代主神が現れ「長田の国の鶏鳴の聞こえる里に私を祀れ」というお告げがありました。そこで、その場所を探し、鶏の鳴き声が聞こえた森に神社をおまつりすることになった、というのが長田神社の創設だといわれています。  

そのため、長田神社ではニワトリを「神鶏」と呼び、戦前までは「鶏(とり)のお宮」として願をかけるときやお礼参りにニワトリを奉納したようです。その鶏は放し飼いにされていたことから、神社ではありますが「チキン・テンプル」と呼ばれ、外国人からも親しまれていました。また、氏子たちは一切の鶏肉を口にしなかったといいます。これもアカエイと同じように、ニワトリを神の使いとして崇めていたので、口にしない風習が生まれたのだろうと考えられています。  

2匹目のいきものはアオハズクです。
アオハズクは、数年に1度の頻度で初夏に東南アジアから長田神社へとやってきて子育てをします。境内のクスノキの穴で子育てを行うようで、その姿を撮影しようと長田神社へ訪れる人も多いようです。
そんなアオハズクは、街のシンボル「グージーファミリー」として木彫りのオブジェになっています。富山県の井波彫刻協同組合によって作成されたそのオブジェは、10年以上ねかせたケヤキで作られた寄木造りのもので、5匹いるファミリーのうちの4匹はこの方法で作られています。 

残り1匹の「コグージー(写真の右下)」はクスノキで作られており、台風で倒れた長田神社境内のクスノキを使用しているのだそうです。実はその木材自体はモニュメント作成までは境内には残っておらず、倒木した後は一度北区の住吉神社に預けられていました。モニュメント作成が決まった際に、住吉神社から分けてもらったものを使用し、一刀彫で制作したそうです。また、モニュメントが収められている建物の入り口には、「萬福笑来(まんぷくしょうらい)」と彫られた額が飾られています。「みんなに福とともに笑いが訪れるように」という願いが込められているその額も「コグージー」と同じく、長田神社のクスノキで作られています。巡り廻って長田へ帰ってきたクスノキは、まるで神社に訪れるアオハズクのようにも思えるお話です。  

長田神社とその周辺は、アカエイのご神木をはじめ、倒れてしまった境内のクスノキも姿を変えて、地元の人々を見守り続けています。

名木伝承データベース / 基本情報

  • 名称:楠宮稲荷社の御神木

  • 樹種:クスノキ

  • 状態:生存

  • 樹齢:推定800年以上

  • 樹高:30m

  • 幹周り:5m

  • 保護・指定:なし

  • 所在地: 兵庫県神戸市長田区長田町3-1-1

詳しくはこちら

名木への道MAP

所在地:兵庫県神戸市長田区長田町3-1-1
阪神電鉄神戸高速線高速長田駅から徒歩で5分
市営地下鉄長田駅(長田神社前)から徒歩で5分

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この記事を書いた人

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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