2024.02.13
杉案内人・高桑進先生の「杉スギる話」~日本のスギはすごスギる?その②
目次
日本におけるスギ利用の歴史 縄文時代〜室町時代
ムラの集落跡「鳥浜貝塚」遺跡の地層から出土したスギの丸木舟【縄文時代】
日本海に面した福井県三方上中郡のはす川沿いには、現在から遡ること約5500年前にかけて形成されたと考えられる、縄文時代のムラの集落跡「鳥浜貝塚」があります。この遺跡の地層から1981年に丸木舟が出土しました。
この丸木舟は、直径が1m程度のスギの巨木を石斧で切り倒した後、クサビで半分に割り、外側の樹皮を剥ぎスギの赤身部分まで外側を削りだしています。舟の内部には焦げ跡があることから、内部を火で焦がしながら削ったと考えられます。
鳥浜貝塚周辺で出土した4隻の丸木舟は、いずれもスギで作られていました。この遺跡を流れるはす川の上流にスギが生育していたことは、放射性炭素年代測定により約5900年前(縄文前期中頃)と推定されています。
さらに、舞鶴市の浦入遺跡からもスギ製の丸木舟が出土しており、放射性炭素年代測定によるとその丸木舟のスギの年代は約3000年~3500年前の縄文後期になります。このようなスギの丸木舟は、出雲市の三田谷遺跡からも出土しています。
スギの「割裂性」を利用して、水田の矢板や水路に使われた【弥生時代】
日本海に面した青谷上寺地遺跡の中には、集落がある高地と湿地の境界に設置された、矢板列や水路遺構にスギが使われていました。このようなスギをつかった矢板列は、静岡県の登呂遺跡でも発見されており、当時の人々がスギの特徴である「割裂性」を熟知し利用していた事がわかります。
「古墳時代の琴」が全国ではじめて完全な形で出土【古墳時代】
島根県八雲村の前田遺跡で「古墳時代の琴」が全国ではじめて完全な形で出土した地点は、小川の川岸であり、貼り石状の遺構があることから、祭祀で琴が使われていたと推定されます。
出雲大社の高層神殿はスギが支えていた【平安時代】
出雲大社の高層神殿は、高さが約48mといわれていましたが、2000年に境内の地下から巨大な柱が見つかり、それが現実であったことが明らかとなりました。その巨大な柱は、古い絵図に描かれたように直径が1mを超えるスギ丸太を3本束ねたものでした。柱は3組出土し、それらはすべてスギが使われていました。出雲大社の高層神殿は、スギが支えていたことがわかります。
数寄屋造りの屋根や、スギの丸太を磨いて床の間の床柱に【室町時代】
数寄屋造り
室町時代からは数寄屋造りが流行し、屋根に使う同じ太さの垂木が多数必要となり、「台杉仕立て」が考案されました。台杉仕立ては、極めて特殊な栽培法で、数本の下枝を残して杉の幹の上部を切ると、下枝が伸びてきて細い枝が成長します、その際、上へ上へと枝を伸長・成長させる目的で、光合成をする葉の枝おろしをしていくと、多数の枝が幹の下から伸びてきます。
このようにすれば、何と最大400本ものほぼ同じ太さの枝を伸長・成長させることが可能となるのです。現在でも京都市北区の中川にいけば、樹齢400年といわれる台杉の姿を見ることができます。
数寄屋造りに必要な垂木は、母屋(もや)の上に直交に掛け渡し軒先を深く出すときや、屋根葺(ふき)材に瓦などの重いものを使用する際、荷重に耐えられるようにするためのもの。
野地板には、垂木の上に張る厚さ9mm~15mmのスギ・ヒノキの板が使われ、瓦桟には耐久性のあるスギやヒノキの赤身部分が使われます。
磨き丸太
室町時代、スギの丸太の表面の天然の絞りをデザインと見立て、磨くことで床の間の床柱として利用することを考えました。最初は自然の絞り模様のあるスギを見つけていたのが、次第に多数の割り箸を幹表面に巻き付けておくことで人工的な絞り模様を作り出したのが人工絞り丸太です。
生活用具に広く使われてきたスギ
スギの樽と桶
スギを使った生活用具の代表が桶と樽です。お酒や醤油づくりには欠かせない大きな樽が1950年代まで使われていましたが、お酒の量が変化するということで課税目的から樽や桶はホウロウに取って代わられました。
かつては、井戸や風呂で使う水汲み桶、洗濯桶、漬け物樽、飯びつ、寿司桶などもすべてスギで作られていました。スギ材が美味しくお米を保存できるからです。
スギの川船
小型の川船(和船)の材料にも脂分が多く、曲げに強い飫肥杉が弁甲材として使われていましたが、強化プラスチックの出現でほとんど使われなくなりました。
スギの建築材
天井板、欄間、建具、長押、磨丸太、床柱、壁止め、框、桁、戸、障子、襖の縁の骨、屋根板などにもスギが使われています。
このように、昔の生活用具の多くがスギから作られていたのですが、今やほとんどのものが石油から作られるプラスチックに取って代わられています。日本人の生活空間からスギ素材がどんどん少なくなっていくのは、日本らしさが失われるようで残念なことでもありますね。
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