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2022.09.01

木とヒト

【装束司】服飾から調度・しつらえまで 時代の総合プロデュース業 黒田幸也さん

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

推定樹齢800年の頼朝杉による頼朝公像制作。その頼朝公の「装束姿」の考証を依頼したのが「装束司(しょうぞくし)」の黒田幸也(62)さん。京都御苑・堺町御門前で江戸初期より装束を調進し、自家製仕立てから衣紋(着付け)まで一貫して携わっている。そのユニークな「しごと」のお話を伺った。

目次

お得意先は神社お神輿からお守り袋まで

装束司とは具体的にどのようなお仕事ですか。

黒田 古くからの服飾類はもちろん、調度品などしつらえ全般を「有職故実」に則って考証や検証をします。大きいものではお神輿や御所車、小さいものならお守り袋まで、範囲は広いです。

装束司は全国でどれくらいいらっしゃるのですか。

黒田 京都には同業者の組合があって、現在14軒です。東京にも5軒ほど、同業者があります。「装束司」の主なお得意先は神社さまで、地方にはほとんど京都や東京の装束司が出張しています。この神社にはこのお店が、といった具合に大抵テリトリーが決まっていますので。

「黒田装束店」さんは、京都の三大祭である葵祭・時代祭にも携わっていらっしゃるとお聞きしましたが。

黒田 あれだけの大きいお祭は手前どもだけではできません。伝統服飾工芸協同組合という組合組織を作って、だいたい6軒の装束店で請け負っております。6軒とも歴史のあるお店で、私どもは平安時代を請け負っていますが、「この時代はこの装束店」と、大体専門化されています。

それらを支える職人さんはどれくらいおいでですか。

黒田 装束業界は裾野が広く、例えば布地は西陣織の織屋に、木具類であれば木地屋に、紐類であれば紐屋に頼みますので、職人さんはかなり多いです。ただ手前どもは昔から代々仕立てを仰せつかっており、家内をはじめ自分のところで仕立てておりますが、基本的にはいろいろな職人さんを束ねて、最後に手前どもの責任で先様におすすめするのが、装束業の本来のかたちです。いわば総合的なプロデュース業ですね。

となると、ご皇室の行事なども携わられるのですか。

黒田 東京が中心になりますが、業界全体も活気づきます。ご皇室の行事などは装束文化を伝える上では大きなウエイトを占めますね。

神護寺絵画の衣装は高位の方の正式なご装束

頼朝公像の装束考証をお受けになっていかがですか?

黒田 私の仕事は、装束を実際に調進する方なので、彫りものの装束考証は正直初めてなんです。ただお得意の神社さま以外では大学や博物館などの仕事もあり、この場合は絵巻を持ってこられ、これを参考に装束を作ってくれという依頼もあります。その経験があるのでお引き受けしました。

彫像の装束考証は、絵巻の場合と少し異なりますね。

黒田 お引き受けした理由が他にもあります。実は装束司にはもう一つ大きい名誉な仕事があります。神社の御扉の内側、そこはお内陣と言われ、神社の方でもごく一部しかご存知ない空間です。そのお内陣の仕事を承ったら、装束司としてその神社さまの御用達になれたという理解をしております。

ごく一部しか知られていない貴重な時代考証の資料をお持ちなんですね。

黒田 よくウナギ屋さんが火事の時、タレを持って逃げると言われますが、同じようなことでうちもその資料をもって逃げないと…(笑)今はパソコンがありますが、布自体はパソコンに入れられませんので。

実際に完成途中の像を拝見して、木造でありながら布をまとっているような感覚で、びっくりしました。

黒田 まだまだ考証途中です。手前どもも、絵巻から装束を作る時に現物と違ってくることがどうしてもあります。それを、なるべく有職故実に則ってこなしていくかが、器量というか技量ですね。本来は「ここまでしたい」ということはあっても、絵画や木像だとその通りにならないという心の葛藤があります。江里先生もそのあたりに苦労されていると思います。

今回の頼朝公像は、江里先生が各所の頼朝像を検証・考察し、頼朝の内に秘められた神性を見出されて「現代に甦る頼朝像」を彫像されています。そして、黒田さんのお力を借りながら、装束はもとよりあらゆる面から時代考証をされている。完成が楽しみです。

黒田 神護寺の絵画人物がどうであろうが、あの衣装は装束司としては見るならば、鎌倉から室町時代くらいの位の高い方の正式なご装束というのは間違いないです。

手前どもは現物をもっているのが強みです。見えるところだけでなく、後ろはどうなっているのか。装束のここを開けるとどうなっているのか、そのへんのところが分かっておりますので、実際に彫られる場合、そういう曖昧なところもしっかりお伝えしようと思います。

装束部分は彩色されるとお聞きしていますが…

黒田 頼朝杉の木肌の美しさは尊重されながら彩色されるとのことなので、色彩や文様も徹底して考証いたします。

ありがとうございました。

黒田幸也さん

1960年京都市生まれ。立命館大学経済学部卒業後、実家の黒田装束店入社。2011年に代表取締役就任、装束司として19代目と伝承される。有職故実に則った装束を調進する傍ら京都芸術大学(現)非常勤講師など装束文化の普及に努める。
現在、伝統服飾工芸協同組合・副理事長、京都神紙調度装束協同組合・代表理事、一般財団法人伝統文化保存協会・評議員。

黒田装束店

【業務内容】
装束調進,自家製仕立て、衣紋(着付け)
京都神祇調度装束協同組合加盟
伝統服飾工芸協同組合(六選会)加盟
映画「二人日和」舞台、装束監修

【住所】京都市中京区丸太町通堺町東入鍵屋町63番地(京都御苑堺町御門前)
【TEL】0075-211-8008(代)
【FAX】075-231-1078
【mail】kuroda-heisiti@office.to
【URL】https://www.hei7.jp/kuroda-shozoku/

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.
13
にも掲載されています!

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銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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