2023.10.28
「もっと身近に名木を!」日本みどりのプロジェクト アンバサダー【俳優 渡辺謙さん】
今回は「日本みどりのプロジェクト推進協議会」のアンバサダーとして、長野県松本市の森林で育樹体験をされた渡辺謙さんに、活動の原動力などについてお聞きしました。
世界で活躍されている俳優の渡辺謙さんは、東日本大震災直後から各地の避難所を回って復興支援を行い、現在も宮城県気仙沼市でカフェを開くなど継続的に活動されています。
目次
役で背負ったものを削ぎ落とす住処(すみか)、軽井沢
長野県に住まれて何年くらいになりますか?
軽井沢に家を建てたのは十年前です。仕事で海外に行くことが多く、帰国したときに体を休める場所として軽井沢に来ていました。自分が一番リラックスできて、いろんなものを削ぎ落とせる場所として、軽井沢が一番良かったんです。
理屈ではなく、体が「ここが一番落ち着くね」と言ってるみたいで。コロナの前に住民票を移して住むようになりました。
体が求めてここに来たのですね。
ちょっと観念的な言い方になりますが、演じることは「役に体を貸す」感じです。だから返してもらわないといけない。軽井沢に戻ると、念や想いを削ぎ落とすことができます。よく滝行とかあるじゃないですか。あれの苦しくないやつですよ(笑)。一番重要なのは水と空気と食です。その三拍子がちゃんと潤っていることが大事ですね。
木に触れると大切にしたい心が芽生える
住環境に樹木があることも必要ですか?
そうですね。(周りを見渡して)もう、こんな感じなんですよ、僕の庭も(笑)。大きな朴の木があって八割が落葉樹です。冬には落葉してスッカラカンになっちゃうけど。その様子を見ると、この生命力の中で生きているのはすごく贅沢だなと思います。木は立っているだけでなく蓄えている。そして春に新芽が出て再生していく……大きなサイクルの木力(きりょく)みたいなものに癒やされます。
今は木に囲まれて生活をして、それこそ「共に生きる」というのは生意気な言い方ですが、そこに身を置かせてもらっているという感じがします。
庭の木の落ち葉を掃いたり、世話をしたりするのですか?
しますよ。ブロワーでブワーって掃きます、本当に楽しいです。例えば、先月すごくハードな舞台をやっていても、翌月になると「あれ、何やってたのかな?」って思うくらい、役で背負ったものをキレイに削ぎ落とせるんです。
削ぐということは、とても大事なことなんですね。
そうですね。やっぱり白いキャンバスじゃないと、新しい絵は描けないですから。
その人物が育った土地の空気を役に取り入れる
気に入った場所や木についてのエピソードはありますか。
例えば、北海道には自然を超えた何か、深い、地球のエネルギーみたいなものを感じる場所が多いです。そこにいると自分の中の細胞が奮い起つような気がします。
役を演じるには、その地域で育った人たち、生きた人たちの厳しさを受け止めなきゃいけないと思っていて、例えば映画「硫黄島の手紙」で演じた栗林忠道(くりばやしただみち)中将は長野県の出身です。そこで最初に何をするかと言うと、その人が見た景色、吸った空気、飲んだ水…みたいなものをまず取り込むのが、僕の儀式というかルーティンになっています。
そのときも最初に長野に来られたのですか?
はい、彼の生家にも行きました。そこで、この景色を見て育つとどんな思考になるのか、というのを感じました。
大河ドラマで演じた独眼竜正宗も、仙台藩だから仙台だと思うじゃないですか。でも出身は山形県の米沢なんです。米沢は山に囲まれた盆地で、冬は半年、雪に閉ざされる土地です。
それを見たときに「あ、この役やれるかもしれない」と思いました。僕も新潟県出身で、冬になるとものすごい雪で「あの山を越えないとどこにも行けない」という想いを抱えながら成長した時期がありますから。
自分とその役をシンクロさせて演じるのでしょうか。
チャンネルが合わないとやっぱり難しいですね。特に歴史上の人物や、本当に生きた人たちの場合は。
木も生き物、触って大切な存在だと確かめる
渡辺さんにとって思い出の木はありますか?
年月を経た木ってすごい力がありますね。屋久島の縄文杉やカリフォルニアのセコイアの巨木もそうです。人の歴史を超えるようなものは、僕らが想像もつかないようなエネルギーを持っていると思います。
海外と日本で自然の関わり方に違いはありますか?
海外の巨木は本当にフリーです。木にはもちろん触れますし、触れて「とても大切な木なんだ」と感じます。木は生き物なんです。日本では名木と言われる木ほど柵で囲ってしまって、ただ見るだけ。いい木であればあるほど、実際に触って感じるものがあるのに、と思います。
人との楽しさの共有が、継続の秘訣
本日、育樹作業で関わった木を百年後に見るのは次世代ですが、次世代に託す想いはありますか。
人間は「今」しか感じることができないから、僕らが次に残すのではなく、今、僕たちが百年前に植えてくれた人たちのことをいかに感じるか。それを先にやらないと未来が見えないような気がします。
ちゃんと過去をリスペクトすること。今あるこの百年生きた木を、僕たちがどう大事にできるかということをまず考え、それを次に伝えていかなければ、と思います。
今の私たちが、百年前を考えるということですね。
例えば、過去に業績のあった俳優やスポーツ選手たちを、今はなかなかリスペクトしない。それをリスペクトするからこそ、自分たちも次の世代から認めてもらえるようになるんじゃないでしょうか。
渡辺さんの活動のエネルギーの源は何でしょう。
俳優は職業なだけで、僕は日本に国籍を持った社会人として生きているので、ちゃんとギブ・アンド・テイクしないといけない。自分が与えてもらった恩恵やいろんな縁を、ちゃんと還元するべきで、それを一つひとつやっていく…それだけかな。力が入れば入るほど、続かなくなりますから。
震災直後から東北支援を続けていらっしゃるのもご縁ですか?
あるときから応援しているとか、支援しているとかいう感覚がなくなりました。一緒に楽しいことを見つけて、おもしろがってやっていこうという感じです。楽しくないと続かないんですよ。だからできるだけ、みんなと一緒に一方通行ではない楽しみ方を見つけていく。そういうことを、コロナの時期でも見つけてやっていきたいと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
渡辺 謙さん
俳優。1959年10月21日生まれ、新潟県出身。
1987年NHK大河ドラマ「独眼竜政宗」で主演を務め人気を博す。
2003年映画「ラストサムライ」で第76回アカデミー賞助演男優賞、および第61回ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞し、高い評価を得る。
他に代表作は、映画「明日の記憶」「硫黄島からの手紙」「沈まぬ太陽」など。
ドラマはTBS「砂の器」、NHK「はね駒」、フジテレビ「御家人斬九郎」など。
映画やドラマ以外にも舞台、CMでも活躍。
日本みどりのプロジェクト推進協議会
お問い合わせ:事務局 06-6312-3407
一般社団法人 テラプロジェクト
【URL】https://midori-project.jp/
銘木総研は日本みどりのプロジェクト推進協議会に参加しています。
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