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2024.01.16

木のコト

木を知る~木々(もくもく)ディクショナリー【くすのき】

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

クスノキ / 樟 / 楠 Camphor tree / Camphorwood

写真提供:PIXTA

Moku Moku Dictionary
[くすのき]

ー:被子植物 Angiosperms
ー:モクレン類 Magnoliids
目:クスノキ目 Laurales
科:クスノキ科 Lauraceae
属:ニッケイ属 Cinnamomum
種:クスノキ C.camphora

樟脳が採れる香木 各地の神社で立派な御神木となる

クスノキとはクスノキ科クスノキ属の常緑高木です。木全体に特異な芳香を持つことから、「臭し(くすし)」が「クス」の語源となった、また、「薬(樟脳)の木」を語源とする説もあります。樹齢も長く大木に育つので、天然記念物に指定されているものも多く、御神木として大切にされる木です。

楠の枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体のことを樟脳またはカンフル・カンファーといい、強く刺すような香りを持ちます。楠は、木全体からこの樟脳の香りがするため、人形や衣服の防虫剤、また防腐剤、花火の添加剤としても使用されています。

また、樟脳は太古の昔より医薬品として、たとえば、のどあめやうがい薬、歯磨きや湿布や軟膏など幅広い用途で使用されてきました。

血行促進作用や鎮痛作用、消炎作用などがあるために主に外用医薬品の成分として使用されていますが、かつては強心剤としても使用されていたため、ほとんど用いられなくなった現在でも、「駄目になりかけた物事を復活させるために使用される手段」を比喩的に「カンフル剤」と例えて呼ぶことがあります。

防虫剤や医薬品となるカンフルが採れる長寿な木

少し意外ですが、近年人気の食材アボカドや、葉が線香の原料となるタブノキ、樹皮が香辛料などに利用されるシナモンなども「楠(くすのき)」の近縁種です。

防虫効果もある楠ですが、その木質は耐湿・耐久性に優れており、葉はつやがある革のような質感で、先の尖った楕円形。長さ5~10cmほどです。4月末~5月上旬に落葉し、5月~6月にかけ、白く淡い黄緑色の小さな花が咲きます。その葉は厚みがあり、葉をつける密度が非常に高く、近年、交通騒音の低減のため、街路樹として活用されることも増えてきました。

楠の葉は、付け根近くから3本に分かれる三行脈と呼ばれる葉脈が特徴で、その三行脈の分かれ目には小さなふくらみがあり、楠にとって無害なフシダニというダニが生育しています。このため、このふくらみはダニ室やダニ部屋と呼ばれています。楠は枝分かれが多いため、直線の材料がとりにくいという欠点はありますが、虫や腐敗に強いという特徴を生かし、古くから船の材料として重宝されてきました。室町から江戸時代にかけて、軍船の材料として使用されたほどです。

その他にも、大きな木材が得られるという長所から家具や飛鳥時代の仏像にも使われていたようです。古くから寺や神社の境内にもよく植えられており、特に神社の森にはしばしば大木が見られ、御神木として人々の信仰の対象とされるものも多いようです。

日本最大のクスノキは、鹿児島県蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」(幹周24.2m)で、確認されている中で、幹周の上では全樹種を通じて日本最大の巨木です。また、徳島県三好郡東みよし町には、1956(昭和31)年7月19日、文化財保護法により特別天然記念物に指定された大クスがあり、これは樹齢数千余年と推定されるそうです。

楠には、カリオフィレン、α-ピネン、シネオール、リナロール、カンフル(=樟脳・カンファー)、リモネン、ゲルマクレン、サフロールなどが含まれ、様々な働きが期待できます。

例えば、楠の葉を入浴剤として使用することにより、血行がよくなり、疲労回復やリウマチ、神経痛、肩こり、腰痛に効果を期待できるといわれています。樟脳は呼吸器、血管を興奮させる作用があるため、外用医薬品として血行促進剤や鎮痛剤として利用されています(※)。

さらに樟脳は、炎症を抑える効果もあるため、リウマチなどの症状をやわらげます。また、外用として樟脳をアルコールに溶かしたものを湿布のようにして貼ると、打撲傷を軽減する働きがあります。

抗菌と消炎の相乗効果で、樟脳が入った化粧品を使用することにより、肌のトラブル(にきびなど)を予防する効果があります。また、にきびができてしまった時に塗る薬にも樟脳が含まれていることも多くあります。

イガやコイガなど、蛾の幼虫は衣類に卵を産みつけ、孵化した幼虫が中から衣類を食べ、また、ヒメマルカツオブシムシなどの甲虫は毛皮まで食べますが、このような虫は、楠から得られる樟脳の香りを苦手とするため、楠には衣類を食べる虫の忌避効果があります。このため、楠は古くから衣類の防虫剤としてお馴染みです。

※樟脳を経口摂取した場合、のどおよび胸の灼熱感、吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、錯乱、痙攣、意識喪失したり場合によっては死に至ることがあるので注意が必要です。

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銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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