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2023.09.15

木とヒト

【だんじり・社寺 彫刻】岸和田木彫会・木彫片山 片山晃さん

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地元の伝統に根ざす地車(だんじり)装飾彫刻は繊細な超精密アート
大阪・岸和田の祭りといえば男たちが地車(だんじり)を引き回す勇壮なイメージですが、その地車は、驚くほど繊細な美しさの立体彫刻で彩られた、動く歴史絵巻的芸術作品といえます。その地車・社寺彫刻の作り手のおひとりにお話を伺いました。

間近に見た地車彫刻の美に魅了され入門

 だんじりの聖地、大阪府岸和田市上町で木彫工房を営む片山晃さんは、この道30数年。片山さんのお父さんが片山銘木店という材木店を経営していて、地車(だんじり)彫刻の名工、筒井嶺燁師、岸田恭司師と交流があり、当時中学生だった片山さんは、その立体彫刻を間近で見て、その美しさと繊細さに圧倒されたという。元々ものづくりに興味があり、好きだった片山さんは、その時すでに彫刻師になることを決意したそうだ。

 そして、高校卒業後の1988年、正式に木彫岸田へ入門し、岸田恭司師の一番弟子となった。師匠の下、様々な彫り物を手がけ、経験を積み、腕を磨くと、2005年に独立、自身の工房を構えた。

八尾の太鼓台を飾る8枚組彫刻絵巻

苦労して大きな作品を完成させる達成感

 装飾木彫の仕事は、基本的に地元で地車を製作している工務店さんから依頼が来るそうで、彫刻の題材は、依頼主さんと相談しつつ、歴史上の有名な武士などから選ばれるため、やはり「弁慶」「源平合戦」など人気のモチーフが被ることもあるのだとか。

 地車彫刻に主に使用される木目が美しい素材は欅(けやき)。工務店さんからはあらかじめ、各パーツに裁断した材が届く。比較的硬い木なので、細い部分は数ミリ単位という繊細な彫刻は彫るのも大変そうだ。しかし、修行に入るとすぐ、師匠の手伝いとして武士の刀など小さなパーツから始め、実際に数多く彫り続けることで、その「手の加減」が身に付いていくのだという。

 地車一台を新調となると町の威信を賭けた、数年がかり、費用も億単位の大仕事。手がけた仕事で印象に残っているのは、2017年、貝塚市名越の地車制作の初責任者を引き受け、3年間の制作期間を経て完成、お披露目した時はやはり感慨深かったと仰る。

片山さんが手がけたこの彫刻は、岸和田市五軒屋町、正面土呂幕「槍摺りの鎧」
地車の装飾彫刻を間近に見るとその繊細さ、芸術性に圧倒される

地車彫刻という仕事とこれから

 地車の装飾彫刻は下から上に土呂幕、小連子、大連子etc.と縦幅の違う層になっていて、例えば「本能寺の変」などドラマチックな合戦の場面がそれぞれ奥行きを持ち、立体的に展開される。この繊細な彫刻の部分は、だんじり祭りの際には金網で保護されるのだが、やはりそれでも壊れることはあるという。

 そんな地車は新調すると100年保つ。そのため一台まるまる新調の仕事はそう度々来るわけではないが、繊細な美術品を引き回すようなものなので、修理は常に必要となり、同時並行でいくつもの彫刻を修理したり、やり替えたりしているそうだ。

 地車の装飾彫刻は地域やニーズが限定された特殊な仕事だが、地元のだんじり愛故か、片山さんの工房にも地元出身で修行されている方がおり、京都には木彫を学べる学校も出来たということで、幸いなことに若い後継者も育っているとのこと。

弁慶を模(かたど)った
「番号持(ばんごうもち・堺市栂のもの)」
各町名や宮入り順を彫ってある。
手摺を掴むような取り付け方には、片山さん独特の工夫が

八尾高安の太鼓台「99年ぶりの彫刻修復」

 取材時、片山さんがちょうど彫刻されていたのが、大阪府八尾市の夏の風物詩のひとつ「高安祭り」に出る太鼓台(ふとん太鼓)の8枚組の装飾彫刻の改修で、黒谷地区からのご注文。

 高安祭りは、長きに渡り地域の方から愛され、太鼓台は宵宮、本宮2日ともに昼、夜巡行します。黒谷地区も玉祖(たまのおや)神社の氏子ですが、今年はコロナ禍明けで、何と20年ぶりに、黒谷地区が御渡り神輿へ復活参加されたという記念すべきお祭り。昔は7月15、16日でしたが、現在は海の日の前の土、日に催されます。黒谷の太鼓台は、1923(大正13)年に初担ぎが行われた可能性が高く、今年満99歳で、今回の改修を終え戻ってくる時には満100歳に。

 黒谷地区の皆さんのお話では、「黒谷地区は他所の地域に比べ、派手さはありませんが、祭礼委員会を中心に、青年団、評議員、地域住民が一丸となって道幅の狭い黒谷地区内を担ぐため、他所の地域から見に訪れるコアなファンも多いと思います。先人たちが築いた礎、伝統文化を継承し、新たな時代の変化にマッチさせながら、年配から子供、全ての方が参加し楽しめる祭りを目指しています。」とのこと。面積的には比較的こぢんまりとした地域だからこそ、年に1度のお祭りが地域の人と外部との交流に重要な役割を果たしているようです。 

「高安祭り」として知られる玉祖神社の夏祭りが、4年ぶりに2023年7月15日・16日の2日間にわたって行われ、重さ約1.5~2トンもある布団太鼓7台が、豪快に練り歩き、新型コロナウイルス禍を乗り越え、まちに熱気をもたらしました。写真の彫刻を片山さんが改修中。

(取材協力・写真提供: 黒谷文化遺産活用実行委員会)

岸和田木彫会・木彫片山 片山晃さん

泉州地域の彫刻師有志が集う「岸和田木彫会」会長。
祭りを支える伝統産業、木彫の技術を遺し伝えるため、
流派の垣根を越えて情報交換、知識や技術の研鑽を積極的に行い、
後継者を育てていく活動にも取り組んでいる。

【URL】
https://k-mokuchokai.jp/horishi/katayama/

木彫 片山

【業務内容】
地車(だんじり)装飾彫刻
寺社装飾彫刻

【住所】〒596-0077 大阪府岸和田市上町29番5号
【TEL】090-1021-1372

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.1
9
にも掲載されています!

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銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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