2023.08.24
大阪造幣局「通り抜け」の桜守 独立行政法人造幣局貨幣部 施設課技能長・渡邊秀勝さん
特集/日本人と桜・第二部
大阪人・関西人にとっては「ソメイヨシノ」のお花見が終わった後にも楽しめる特別な桜の名所がある。
独立行政法人・造幣局本局(大阪)、いわゆる「造幣局の桜の通り抜け」である。その特別な桜を守り続ける方々にそのご苦労など、お話を伺った。
お話 / 独立行政法人 造幣局
広報官付・木村幸司さん
貨幣部 施設課技能長・渡邊秀勝さん(文中敬称略)
目次
140年も前から続く特別な桜の名所 ~造幣局の桜の通り抜け~
560m間に、140種339本の桜が咲き誇る
大阪・造幣局の「桜の通り抜け」は明治16年、当時の造幣局長・遠藤勤助氏の提案により、造幣局構内に咲いていた桜を一般公開したのが始まりと言い伝えられています。
造幣局は江戸時代の旧藤堂藩蔵屋敷の里桜と敷地を受け継いだため、その構内に見事な桜が植えられていたようです。当初の桜の通路の長さは何と1キロメートル。明治36年に現在と同じ560メートルに。大正6年には約70万人もが集まる人気の名所になりました。しかし、重工業の発展期だったその頃、大気汚染に弱い桜が煤煙で枯死するなど維持管理には苦労し、外部専門家の手を借りたこともあったとか。
第2次大戦中には、開催期間途中に空襲で中止になったり、昭和20年6月の大空襲の際には、構内の約500本の桜のうち、300本もの桜が焼失するなど悲しい出来事も。が、戦後復活に向けての努力が続けられ、昭和22年に再開。桜の木も補充されました。
そして平成8年、造幣局創業125周年の記念として、桜の通り抜け通路整備が行われました。
コロナ禍で公開が中止となった2020年・2021年を経て、昨年、人数制限はありましたが、大阪人待望の造幣局「桜の通り抜け」が再開となり、久しぶりに見る桜ファンたちの目と心を楽しませてくれました。
通り抜けの桜を守り・伝え続けているのはこんな方たち
桜の通り抜けは、長さ560メートルの通路に140(取材時点)もの多品種の桜が咲く、『生きた桜の博物館』とも言うべき、他に類を見ないユニークな桜の名所ですが、ここに多品種の桜を植えておられる理由は何ですか?
木村:来場者の方々に様々な桜を楽しんでいただければと多くの品種を植えており、今後については、品種を増やす余地があれば検討したいと考えています。
歴史の長い通り抜けですが、現存の桜の木で最も樹齢の長いものは何年ぐらい経っているのでしょうか?
木村:残っている記録によると、昭和34(1959)年、通り抜け通路に植栽された記録のある桜が残っているので、通り抜け通路に60年以上あることになります。なお、通り抜け通路に植栽できる大きさになるまでにさらに数年かかるので正確な樹齢は不明です。
様々なメディアで造幣局の桜守として紹介されている施設課技能長の渡邊さんに伺います。入局以来ずっと桜を守るお仕事をされているそうですね。
渡邊: 「平成3年4月に入局し、研修後配属された初めての仕事が、桜の害虫、つまりは毛虫取りでした。それからかれこれ32年になります。」
こちらには140種類もの多品種の桜の木がありますが、実際には何人でお手入れをされているのですか?
渡邊: 「施設課は造幣局の各設備を保全する様々な業務に携わっていますが、その中で、桜の保守を主に担当しているのは、私を入れて2名ですね。しかし繁忙期には、他の職員も手助けしてくれます。」
桜は繊細な樹木ですから、毎年綺麗な花を咲かせるためには、様々なお世話が必要でしょうね。
渡邊: 「桜の保全に必要な作業は、こんな感じですね。これらを季節に応じて行います。」
すごく大変そうですね。でも、渡邊さんはじめ、桜を守って下さる方がいるからこそ、「桜の通り抜け」を楽しむことが出来るんですね。他に苦労や工夫されていることはありますか?
渡邊: 「桜の枝は切らない方が良いと言われることもありますが、私の経験上、弱ったり伸びすぎて垂れ下がった枝を支柱で押し上げたり、吊るしたりすると、その枝が枯れることが多いと実感し、適度に枝を切り、切り口を防腐処理します。桜の通り抜けの通路を安全にすることにもなりますしね。ただ、多くの桜があるので、特定の木のファンのお客様もいらっしゃり、切らないでくれと言われたりもするのが悩みどころです。また、2018年の台風の強風で、根元から倒れたものが10数本、枝が折れたりしたものは57本と甚大な被害を受け、その処理は大変でした。」
渡邊さんにとって桜とはどんな存在ですか?
渡邊: 「桜も生き物と考えると、自由に伸び放題にしてやりたいと思うこともあったりしますが、春と秋に虫が付き、その寿命も40年から60年ぐらいと限りがあるので、これからも毎年綺麗な花を咲かせられるように手をかけていきます。」
以前、弊社の広報誌で笹部新太郎氏を取り上げ、氏が造幣局に桜を寄贈し指導もしたようですが、何か記録など残っていますか?
木村: 「それが、当時の記録が造幣局にあまり残っておらず、詳しいことはわかりません。が、「笹部桜」は今も2本ありますよ。」
次世代の桜に植え替え、通り抜けを未来に繋いでいく責任
「桜の通り抜け」の桜を守っていく上でこれからの課題はありますか?
渡邊: 「ご存知の通り、桜の木の寿命は長くて60年程度なので、構内の桜の木には古木となり、弱って枯れかけ、回復が難しいものもあります。その場合、接ぎ木などで増やした幼木を養成地で育てて大きくし、枯れた古木と入れ替え、移植する必要があります。先ほども話したように思い入れのある桜を切らないで欲しいと言うお客様もいらっしゃいますが、桜も世代交代しないと、美しく、安全な「桜の通り抜け」をこれからも維持することは出来ません。さらに、造幣局の桜を守り続けていけるよう、次世代の人材も育てないといけませんね。」
これからも「桜の通り抜け」を楽しみにしています。ありがとうございました。
造幣博物館(本局)見学のご案内
造幣局では工場見学・博物館見学ができます。詳しくは造幣局のホームページを御覧ください。
【住所】大阪市北区天満1-1-79
【お問合せ先 Tel】06-6351-8509
【開館時間】
午前9時から午後4時45分(入館は午後4時まで)
【休館日】
年末年始、「桜の通り抜け」開催期間、毎月第3水曜日
このほか、展示品の入替日等のため臨時休館することがあります。
【ホームページ】
https://www.mint.go.jp/
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