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2022.11.01

木とヒト

【仏師】江里康慧仏師の手による源頼朝公像がいよいよ完成。推定樹齢800年の頼朝杉の木魂が象(かたち)に。

銘木総研 編集部
銘木総研 編集部

杉の清らかな香りに包まれて、凛とした佇まいに武士の棟梁の品格と威厳が漂う。

江里康慧仏師の手による「源頼朝公像」がついに完成。推定樹齢800年の「頼朝杉」が象(かたち)となり、“神性”を宿して令和の時代によみがえった

目次

貴公子の気品と棟梁の威厳 気骨ある人物像を表現

鑿(のみ)入れ式から約9カ月。ついに完成の日を迎えました

江里 当初予定からは少し時間がかかりましたが、とても感慨深い。何よりほっとしました。どうしてももう少し、もう少しと思ってしまいます。お顔が最初のころよりはスリムな印象になり、よかったと思います。

最も大切にされていたことは

江里 源頼朝という方は源氏の棟梁という貴公子である一方、関東では居並ぶ豪族たちと渡り合う度量の持ち主でした。豪族たちが祭り上げるのにふさわしい人柄であったと思います。そんな気品と気骨とを兼ね備えた人物像を表現したいと思いました。

征夷大将軍となり鎌倉幕府を開いた武士の棟梁の威厳と品格をまとい、静かに着座する「源頼朝公」。長く静岡県島田市の智満寺で信仰の対象として敬われ寿命を終えて倒木した「頼朝杉」が、今再び江里仏師の手で命が吹き込まれた。頼朝の生涯とともに頼朝杉の物語も未来永劫、世に伝えられていく

心の頼朝像、その「神性」をかたちに表す

現存する頼朝像や絵を参考にされたそうですが、難しさはありましたか

江里 最も私のイメージにあったのはやはり神護寺(京都市右京区)の「伝源頼朝像」(国宝)です。子供の頃から親しんできた絵像だったものですから。最近は頼朝ではないなどいろいろな説があるようですが、やはりあの気品、端正さはすばらしいと思います。絵画として一級品でもあります。あとは、東京国立博物館の「伝源頼朝坐像」も、鎌倉の鶴岡八幡宮に伝来したという貴重なもので参考にしましたし、甲斐善光寺の「源頼朝木像」も「真の頼朝像」と言われているようです。ただ、どれも絶対これだというものがない。やはり最後は自分のイメージで創り上げるしかありませんでした。却ってその方がよかったかもしれません。

気を付けられたことは

江里 まずは豪族のイメージにならないこと。そして何より、頼朝という人の「神性」を表現したいと思いました。頼朝は父・義朝の第3子なんですが、母は熱田神宮の大宮司の娘で血筋もよく、嫡男とみられて育ったようです。幼少期からそうした雰囲気をもっていたのではないでしょうか。

「頼朝杉」の力そのままに

倒木した「頼朝杉」もご覧になったそうですね

江里 山で切り出したところの木を見ています。一見して巨大な木というのは分かりました。杉は彫刻には向かないといわれてきましたが、私の師匠が以前「巨木なら問題はない」とおっしゃっていたのを思い出した。実際、とりかかってみるとその通りでした。若い木ではとてもこうはいきません。推定樹齢800年と伝わる「頼朝杉」自身の力といえるでしょう。

今回は名木ということで、着色も控えめにされたとか

江里 彩色というよりは着色という感覚です。濃度の薄い絵の具で染めるという感じで、そうすると美しい木目が透けて見えます。衣装の黒い部分は絵の具を使わず墨を使いました。薄墨です。そこに「輪無唐草(わなしからくさ)」の文様を施しました。神護寺の頼朝像にもその文様が使われています。今回は「頼朝杉」で作られた木像であり、厨子であるということを大事にしなければいけないと思いました。

頼朝杉の木目や質感を生かした、高貴かつ控えめな着彩を試行錯誤した。

江里 上着は狩衣ではなくて袍(ほう)、袴は指貫(さしぬき)、頭には烏帽子ではなく冠です。時代考証では装束司の黒田装束店さんに貴重なアドバイスをいただき、品格を大事にして指貫は紫色にしています。

不思議な縁に導かれ人事を超えたはからいに感謝

樹齢800年の名木を用いた寄木造の「源頼朝公像」。杉の彫刻は珍しく、美しい木目を生かした造形美は他に類を見ない。控えめに施された彩色が木肌の美を引き立て、その調和が見事だ。厳しくも穏やかにも見えるまなざしが印象的で頼朝自身の生涯を彷彿させる

今回は不思議なご縁を感じていらしたそうですね

江里 そうなんです。以前、法住寺(京都市東山区)の後白河法皇像、そして寂光院(同左京区)の建礼門院徳子像(平清盛の娘で高倉天皇の中宮)などを制作させていただいたことがありました。いわば頼朝の宿敵である方々です。何か大きなはからいというか、人の力を超えたものを感じました。完成を迎え、そうしたすべてのご縁に感謝したいと思います。

ありがとうございました。

平安佛所代表/江里 康慧(えり・こうけい)さん

独立後、父・宗平とともに仏像制作に専念。全国各地の寺院に納めた仏像は約1,000体。
三千院や大本山瀧光徳寺から大仏師号を賜っている。京都府文化功労賞受賞。仏教伝道文化賞受賞。
龍谷大学客員教授、同志社女子大学嘱託講師等を歴任する。著書『仏師という生き方』など。

本記事は、
~日本の名木と伝承を明日に紡ぐ~
銘木総研の広報誌「木魂ッ子」vol.
14
にも掲載されています!

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銘木総研 編集部
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地域の人々によって大切に守られ語り継がれてきた「名木と伝承」にフォーカス。伝承とともに人々の生き方に寄り添ってきた名木が持つ史実やいわれを調査研究し、伝統文化・歴史の継承、名木の利活用につながるご提案とその実践を行っています。

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